第207話君のボブカットと、僕のボブカット。

 僕のヘアスタイルはボブカットだ。


 ロックミュージシャンに憧れてこの髪型にしているのだけど、周りからは理解されない。


「似合ってない」とか「栗みたい」と言われる。


 失礼な。


 まぁ、個人の意見は色々あるだろうから仕方ない。


 僕はこの髪型が好きだから貫く。


 それだけだ。


「なんかキノコみたい」


 ――そんなことを君から言われたのが昨日のことだ。


 栗の次はキノコって……最終的に「秋の味覚王」みたいなあだ名になるんじゃないか?


 しかし君からそんなことを言われるのは意外だ。


 なぜなら君こそボブカットを貫いていたからだ。


 これは一言いわせてもらおう。


 君だってロックに憧れてるんだろ?


「わたしはキノコに憧れてるからっ!」


 ……シンプルな菌類オタクだった。


 どうしよう、予想に反してる。


「き、キノコ……なの?」


 そう尋ねる僕に大きく頷く君。


 本当に好きなんだ……そうか、なるほど。


 納得した僕を見て、君は「あなたはロックに憧れてるの?」と顔を覗いてくる。


 頷く僕に「じゃあギター弾いてよ」と言ってきた。


 ごめん、音楽は聴くけど弾けないんだ……。


 ああ、よくわからないけど魂が揺らいできた。


 自分は本当にロックなヤツなのか自問自答がはじまる。


 そんな僕の肩をポンと叩き、君は自信に満ちた笑みを浮かべた。


「ギターが弾けなくても、ロックが好きという魂は消えないよ!」


 そう言って颯爽と去って行く。


 なんだろう、菌類を貫くその生き方も相当ロックな気がするが……。


 気のせいか君の背中が輝いて見えた。


 魂がざわつく。


 よし、この気持ちを曲にしよう。


 ――ひと月後。


 ギターは弾けないけどピアノが得意な僕は、キーボード担当でロックバンドを結成してみた。

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