第204話あるモノを抱えて現れるあなたの正体

 毎日、学校の帰りに気配を感じる。


 わたしが足を止めると、向こうも合わせて歩みを止める。

 

 どうしよう、こわい。


 だけど相手の正体がわからないのはもっとこわかった。


 わたしは心臓を押さえながら後ろを振り返る。


 するとそこには一人の男の子が立っていた。


 わたしを怖がらせたことに罪悪感を覚えたのか、「ご、ごめんなさい!」と頭を下げる。


 見た目はおとなしそうなフツウの男の子だけど、おかしな点が一つある。


 まんまるに実った大きなスイカを抱えていたからだ。


「そ、それは?」


「じつは君にあげようと思って」


 初対面の女子にスイカをプレゼントするらしい。

 

 なかなかヤバイやつだな。


 どうしよう、ダッシュで逃げるか?


 別の意味でコワくなったが、しかしあなたが悪い人には見えない。


 不思議なことに妙な親近感もある。


 とりあえずスイカを受け取ったわたしは、家に帰ってそれを六等分に切った。

 

 縁側に座って種を吐きながら食べていく。


 しかし今日のことを振り返っても、あの子のことがわからない。


 単なるストーカーの可能性もあるが……それよりもスイカがおいしすぎて全部食べてしまった。


 家族にバレないように散乱した種を庭の土に隠して、その日は何食わぬ顔で過ごした。


 ――そして翌朝。


 帰り道にあなたはやってきた。


 というか「あなたたち」はやってきた。


 同じ顔のあなたが十から二十ほど並んでいる。

 

 これは夢だろうか?


「あ、あなたたちは一体……?」


「毎年庭で育ててもらってるお礼です」


 わたしの吐いたスイカの種は、庭で芽を出して毎年小さな実をつける。


 まさかあなたたちがその精霊だったとは。


 それ以降スイカを食べる際に、あなたの顔が浮かんで躊躇う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る