第197話雷の鳴る日に、僕は浮かぶ

 今日は朝から雷が鳴っている。


 なかなか雨が止む気配がない。


 灰色の空を見上げながら、僕は登校した。


 大好きな水泳の授業ができないのが残念だ。


 数学の時間に窓の外をぼーっと眺めていると、目の前がカッと白く光る。


 ほぼ同時に轟く大きな雷。


 鼓膜の中で爆発したような振動が響き、近くの山から煙が上がっていた。

 

 まさか……落ちた?


 幸い火事にはならなかったものの、しばらく立ち上っていた煙が気になってそわそわする。


 そこで放課後に、ちょっと寄り道することにした。


 あの山に登って、雷が落ちた場所に行ってみよう。


「……なんだ、これ?」


 現地に到着した僕は変なモノを見つける。


 丸い水晶みたいな物体が空中に浮いているのだ。


 そーっと手を伸ばして触ろうとすると、「あぶない!」と背後から声が飛んできた。


 肩を震わせて振り返ると、髪の長い女の子が立っていた。


「それ充電中だから感電するよ」


 そんなことを言う君は、自分は宇宙人だという。


 故郷の惑星に帰る最中に、宇宙船のバッテリーが切れて充電していたらしい。


 遥か未来のテクノロジーだというが、僕は目を丸くしてしまった。


 そうこうしているうちに充電は完了する。


 君は帰り際に、せっかくだからとお土産を渡してくれた。


 僅かな雲間から飛び去る宇宙船を眺めながら、僕はしばらく手を振る。


 ――それから数日後。


 やはり雨は降り続いている。


 今日も水泳の授業は中止。


 だけどそんなに憂鬱でもなかった。


 なぜなら君がくれた無重力装置は快適そのもの。

 

 家の中にいながら空中を泳げるなんて、僕にとってこれほど最高な雨の日はない。

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