第193話背の低い僕と、背の高い君と。

 僕は高いところが苦手だ。


 昔はジャングルジムに上ったまま気絶したこともあり、それ以降高いところをなるべく避けて生きてきた。


 こんなことを言えばバカにされるんじゃないかと思い、周りにも言ったことがない。


 そんな僕も高校に入って彼女ができた。


 相手は背の高い女の子。


 身長の低い僕と釣り合わないんじゃないかと心配だったが、君は「そんなの気にしてない」と言ってくれる。


 なんていい人だ。


 僕は君のためならなんだって出来る気がした。


 すると君は恥ずかしそうにこんなことを言う。


「遊園地に行きたい」


 ……どうしよう。


 いきなり大ピンチだ。


 ――そして日曜日。


 遊園地にやってきた君はテンションが高い。


 げんなりする僕の腕を掴み、グイグイと奥へ進んでいく。


 君が乗りたいと指差すアトラクションは、どれも高い位置で楽しむものだ。


 展望台もジェットコースターもフリーフォールも。


 なんとかごまかしてパスしていたが、あまりにもパスするから君が泣きそうな顔になってきた。


 さすがにマズイと思い、我慢して観覧車に乗ることにする。


 君はすごく喜んでくれたが、案の定、夕日の見える頂上で僕は気を失った……。


「ん……ここは?」


 目が覚めた僕は君の背中におんぶされていた。


 恥ずかしさと申し訳なさで頭がいっぱいになる。


 すると君は「わたしの背中、高いけどこわい?」と尋ねてきた。


 しばらく沈黙を挟んだ僕は「いや……大丈夫」と言って再び体重を預ける。


「よかった」と言って君は微笑んでいた。

 

 そんな帰り道。


 僕は自分の頬がほんのり温かいことに気付く。


 気絶している間になにかあったか聞くと、君は唇を触りながら


「ないしょ♪」


 と、また微笑んだ。

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