第190話一番欲しいものが入っている不思議なガチャポンをやってみる

 近所の駄菓子屋に不思議なガチャポンがある。


 ガチャポンとはカプセルトイの一種で、お金を入れてレバーを回すと、おもちゃなどが入ったカプセルが機械から排出されるというもの。


 この駄菓子屋のガチャポンは、その人の一番欲しい物が入っているらしい。


 いくらなんでもそれはないだろう。

 

 なぜならわたしがほしいものは、あなただからだ。


 こちらに振り向いて欲しい。


「じゃあ、さっそく……」


 随分高額な値段だが、この日のためにバイトしてお金を貯めてきた。


 ウワサが本当かどうか、最後の一個になるまでプレイするつもりだ。


 ガチャリと。


 レバーを回すと丸いカプセルが排出される。


 開けてみると、中には「消しゴム」が入っていた。

 

 ……ハズレだった。


「もう一回……」


 ガチャリと。


 息を呑みながらレバーを回す。


 そこで脳裏に浮かんだのはあなたの顔。


 教室で消しゴムを落としたあなたは、拾ってあげたわたしに「さわるな」とキツい視線を向けてきたのを思い出す。


 びっくりしたけど、そうやって拒絶されると、かえって振り向かせ甲斐がある。


 さて、カプセルの中身は――


「ハズレだ……」


 結局、何回プレイしても本命は出ない。


 最後の一個が排出されて、わたしはカプセルを開けた。


 ……すると。


 なんと中身は空だった。


「うぅ~このインチキがぁ~!」


 感情にまかせて空のカプセルを投げ飛ばす。


 そうしたら、たまたま側を歩いていたあなたに当たってしまった。


 頭を摩りながらこちらにやってきたあなたは、目の色を変えてハズレの消しゴムを手に取る。


「こ、これは幻のレア物!」


 そう言って「たのむ! 譲ってくれ!」と、あなたは必死で懇願してきた。


 なるほどコレクターだったのか。


 その必死な姿に胸がドキドキしてしまい、消しゴムを手に、わたしはわざと交渉を焦らしてみる。

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