第183話白い包帯と、未来の君と。

 君が引っ越すことになった。


 父親の仕事の関係で遠くに行くらしい。


 住み慣れたこの街や学校ともお別れ。


 旅立つ前日の夜、僕は君と公園で待ち合わせをした。


「あ。いたいた」


 街灯の下に君を発見。


 大きく手を振るとこちらに気付き、君は小さく手を振って合図した。


 これからなにをするでもなく、ただ歩きながら話をする予定。


 月のきれいな夜、僕たちは公園を出発して見慣れた街並みを散歩した。


「いろいろあったね」


 隣でなにげなく言う君に対し、「そうだね」と軽く返事をしながら昔を思い出す。


 実際、いろいろあった。


 さっき通り過ぎた電柱でさえ思い出の一つ。


 僕がふざけて登校していたときに頭をぶつけたことがあった。


 そこで通りかかった君が絆創膏をくれて貼ったのを覚えている。


 そういえばそれがきっかけで学校での会話が増えたっけ。


 今まで忘れていたことが昨日のことのように浮かんできた。


「ねぇ。あそこ行こ」


 君は誰もいない学校を指差す。


 侵入するのは少し躊躇ためらいがあったが、最後だからいいやと塀を乗り越える。


 二人で中庭のベンチに座ってぼーっと月を眺めていると、君が僕の肘を触ってきた。


 どうしたのかと思ったら血が出ていた。


 さっき擦り剥いたのだろう。


 ポケットから出された小さな絆創膏を貼って君は言う。


「デジャヴだね」


 って。


 そんな何気ない会話を最後に、翌朝君はこの街を旅立った――。


 それから数年後。


 遠くの街に就職した僕は、台所で火傷をして病院に行く。


 すると父親の病院を継いだ君が診察してくれて、包帯を巻いてくれた。


「デジャヴだね」


 ――そんな再会の言葉を交わし、二人はその夜、公園で待ち合わせをする。

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