第182話悪魔になったわたしは、あなたの部屋を訪ねてみる

 わたしは不注意で道に飛び出して死んだ。


 異世界に転生できたらよかったんだけど無理だった。


 今はもう人間じゃないけど、それでもあなたを見守ることはできる。


 言っとくけど幽霊になったんじゃあない。


 世間で言うところの悪魔。


 わたしは悪魔になったんだ。

 

 頭に角が生え、背中に黒い翼があり、目の周りは黒くて、爪も長く、髪の毛は真っ黒のロングストレートで――ってあれ?


 ひょっとしてわたしイケてない?


 見た目てきな意味で。


 なんていうかビジュアルバンドみたいだし。


 どうしよう、誰かに見てもらいたい!


 わたしはそんな衝動であなたの部屋に向かった。


 そろそろ学校から帰っているころだ。


 悪魔の力で壁をすり抜けて、問答無用でお邪魔した。


「……ん?」


 そうしたら部屋であなたが泣いていた。


 学園祭のときの写真を眺めて、わたしの名前を呼んでいる。


 そこではじめて知る。


 あなたはわたしのことが好きだったんだ。


 こちらの姿が見えていないようで、わたしの存在に気付いていない。


「…………」


 わたしはあなたの前に姿を晒すのをやめた。


 そしてこの力をある目的で使うことにした。


 あなたからわたしの記憶を消したのだ。


 よし。


 これでもう泣くこともないだろう。


 わたしを知らない世界で自由に生きればいい。


 こうしてわたしは、静かに部屋をあとにした――。


 ――それから何十年も経ったある日。


 あなたに寿命が訪れた。


 わたしは枕元に立って最期を見届けようとした。


 するとあなたは死の直前、こんなことを言う。


「やぁ、久しぶりだね」


 って。


 死に際に記憶が戻ったようだ。


 どうやらわたしが見えているらしい。


 偶然? 奇跡?


 いずれにせよ、まもなくあなたは息を引き取る。


 こちらの世界に来たあなたは、わたしを見てこう言った。


「似合ってるじゃないか」


 って。

 

 やっぱりわたしの予想通りだ。


 悪魔の姿も悪くない。


 これからは時間もたくさんあることだし。


 もっとわたしのことを褒めてくれよ。

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