第179話料理研究部の君はクッキーを作る。幻の水は旅人を惹き寄せる

 ある日モノが食べれなくなった。


 というのも食べ物を口に運ぼうとすると身体が勝手にそれを拒否してしまう不思議な現象だ。


 水だけは飲めるけど、このままじゃあ空腹で倒れてしまう。


 こうなったのもアレが原因だ。


 僕はすぐに君のもとを訪ねることにした。


「なにか用?」


 放課後の家庭科室で、君は料理の研究をしていた。


 この学校には料理研究部という部活があり、部員は創作料理を毎日研究している。


 君が作った試作品のクッキーを昨日食べたのだが、それがびっくりするくらいおいしかった。


 しかしそれ以降、ほかの食べ物を口にすることができなくなった。


 もしやこの現象の原因は、クッキーにあるのでは?


 そう僕は睨んだ。

 

 そこでさっそくクッキーの材料を聞いてみる。


 君はレシピを書いた紙を持ってきてくれたが、読んでも怪しいモノは入っていない。

 

 どういうことだろう?


 クッキーは関係ないのか?

 

 もっと詳しく調べようとしたそのとき、僕は空腹でグラリと倒れてしまった。


 君はすかさず冷蔵庫から水を持ってきて飲ませてくれる。


 ング……ング……。


 とてもおいしい水だった。


 すると身体が生き返るように元気になった。


 すごい……。


 この水、どこで売っているんだろう?


 僕が尋ねると、君は言う。


「これは汲んできた水だよ。クッキーにも使ってるんだ」


 どうやら言い伝えによると、その昔、水の女神が瀕死の旅人にこれを飲ませて元気な身体に戻したという。


 ところが旅人は水の味が忘れられず、水以外を口にすることができずに死んでいったそうな。


 女神は旅人の死に責任を感じたという。


 その後、人間に姿を変えた女神は現世で生き続けているとか。


 生まれ変わった旅人に会うため、そして栄養をつけてもらうために。


 今もどこかで、料理の腕を磨いているという――。

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