第178話みかんの皮のツブツブを全部潰すと願い事が……?

 あなたは、みかんの皮にある小さなツブツブを気にしている。


「これってなんだろう?」


 そんなことを言いながら、わたしの前で首を傾げた。


 このツブツブは油胞と言って、簡単に言えば香りのする油が入っている。


 それはリモネンという成分だ。


 害虫から果実を守ったり、または洗剤に使われたりもする。


 ――とまぁ、ツブツブについては一旦置いといて。


 わたしはあなたに次のようなウソを言った。


「そのツブツブを全部潰したら、みかんが金色に輝くんだよ」


 そしたらあなたは、


「マジか!?」と目を丸くして本気にしてしまった。


 いや、マジじゃないよ……。


 っていうか普通、ウソってわかるでしょ……。


 ツブツブに興味を持ってしまったあなたは、さっそく爪楊枝を持ち出して一粒一粒を突きはじめた。


「…………」


 気の遠くなるような作業だ。


 あまりにも真剣にやるものだから、ウソだと言いづらい空気になり、わたしは口をつぐんでしまう。

 

 気まずい。

 

 非常に気まずい。


 わたしが「ね、ねぇ……」と問いかけると、「これ金色になったら願い事とか叶うのかな?」とか言ってくる。


 そんなロマンチックな追加設定入れなくていい。


 しかも「なぁ、なに願う?」とか聞いてくる。


 というか願いが叶うの確定なの?


 けがれを知らない純粋な瞳と少年のような笑顔を向けられ、膝が震えた。


 罪悪感を覚えたわたしは、そのまま体育座りの状態でしばらく動くことができない……。


「よし! やった!」


 一時間後。


 ついにあなたは全てのツブツブを潰した。


 わくわくした顔を向けるあなたに、わたしはどうしようか迷う。


 考えすぎて頭がパニックになったせいか、わたしはみかんを奪い、なぜか皮ごと自分の口の中に放り込んでしまった。


 目を白黒させながら飲み込んで、涙目になりながらこう言う。


「……すごい! 甘くなぁれって願ったら、甘いみかんになったよ!」


 ホントはすっぱいけど……。


 わけのわからない行動をとったせいで、あなたはポカンとわたしを見ている。


 しかし、しばらくするとその顔に笑みを湛えながら、


「マジで甘くなったの!? スゲェじゃん!」


 と、興奮しているようだった。


 ……なんだろうこの展開……。


 実際にみかんが金色に輝くことはないし、すっぱいみかんがいきなり甘くなることもない。


 でも一つ確かなことは。


 あなたのその笑顔が、わたしには金色に輝いて見えた。

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