第177話深夜アニメで寝落ちした僕と、勇者が倒した魔王の話

 深夜アニメを観ている最中に寝落ちした。


 勇者が魔王を倒す王道ストーリーの作品だ。


 リアルタイム視聴だったので、眠気との闘いだった。


 なんとかエンディングまで視聴することはできたので、まぁ良しとしよう。


 気が付けばテレビ画面に、「放送電波試験中」の文字が表示されている。


 あのピーという音が流れたままになっているので、僕はテレビを消した。


 さぁ、明日も学校だ。


 眠い目を擦りながら、僕はそのままベッドに転がり込んだ。


 翌日。


 登校した僕の目に飛び込んだのは、目が覚めるような光景だった。


「おはよう」


 と手を振る君の姿がアニメのヒロインそっくりだったからだ。


 夢じゃないかな?


 昨日の続きを観ているんじゃないかと目を見開いていると、「どうしたの?」と君が顔を覗き込む。


 間違いない。


 本物だ。


 現実に現れたヒロインを前に、この日から僕のテンションは上がりっぱなしだった。

 

 授業中も休み時間も下校中も、君と過ごす時間が圧倒的に増えた。


 君も同じアニメを観ていたようで、世界を守る勇者の姿に胸がキュンとなるという。


 そんなある日、僕は君に呼び出されて学校の屋上に向かった。


 これはヒロインが勇者に告白する展開に似ている。


 やっぱりか!


 ハッピーエンドのパターンが見えて僕は緊張した。


 そんな面持ちで君の前に立つ。


 そしてついに、告げられた言葉。


「わ、わたし、あなたのことが――」


 そして――


 ――僕の胸にナイフが突き立てられた。


 ゆっくり手で触れると、指の先が夕日の色に染まる。


 身体がグラリと揺れて、倒れた。


 ああ、そうか。


 僕はここで納得した。

 

 君は僕のことが魔王に見えていたらしい。


 僕は君のことがヒロインに見えていたが、実はそうじゃなかったんだ……。

 

 夕日にナイフを翳す君を見て、僕は確信する。


 その姿はヒロインなどではなく。


 エンディングの勇者に、そっくりだった――。

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