第173話君の頭にすいかの芽が生えたので、僕たちで育てることにした。

 すいかの種を食べるとどうなるだろう?


 小さい頃はお腹の中で芽が生えると大騒ぎしたものだ。


 今では懐かしい思い出話。


 まさかそれが現実のものになるなんて……。


 一緒にすいかを食べた君の頭に、芽が生えてしまった。


「なに見てるの?」


 君は頬に種をつけながら問う。


 なに見てるの、じゃないよ。


 最近ニュースで新種の植物が発見されたとか言ってたけど、これはそれ以上の発見だ。


 僕は鏡の前に君を連れて行き、現実を見せる。


 君は頭に生えた芽を摘んで眉を顰め、それから思いっきり絶叫を響かせた。


 驚いたのは芽が出たことだけじゃない。


 これを抜こうとしても抜けないことだ。


 グイと引っ張るごとに君の頭も引っ張られる。


 身体と一体化してしてしまったのか?


 病院に行こうと勧めてみたが、「実験体にされる!」と嫌がったので諦めた。


 取材が殺到するのもイヤだろうし。


 結局のところ経過を見守ることになる。


 夏の間、僕たちでこの芽を大事に育てることにした。


 雨の日も風の日も観察日記をつけながら、すいかの成長を見守る。


 不思議なもので一カ月を過ぎた頃には、二人の間で奇妙な心の変化が生じた。


 子育てといえば大袈裟だが、二人で何かを育てるという行為が愛情にも似た錯覚を生んだのかもしれない。

 

 それから時は経ち、君の頭に小さな実ができた。


 二人でそれを食べてみる。


 甘くておいしい果実だったが、すいかではなかった。


 そういやまてよ……君はすいかの種を吐き出すタイプだったな。


 じゃあこの実は一体――。


 あの日のニュースを思い出す。


 愛情に反応して成長する植物が発見されたと世間では話題になっていた。


 特に思春期の男女の頭に根を張りやすいという。

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