第171話君が提案する雨雲チャレンジにチャレンジする僕

 雨雲チャレンジなるものをしようと言われた。


 学校の昼休みのことだ。


 君の顔を見ながら、僕は頭に「?」を浮かべる。


 それはどんなチャレンジなの?


 すると君は言う。


「曇りの日の夜。山に登って空を見るの。雲間から星が見えたら勝ち。雨が降ったら負け」


 君は机に身を乗り出しながら嬉々としてそう言った。


 天候に勝ち負けがあるの?


 っていうか誰が勝って誰が負けるの?


 そんな僕の質問はスルーして、君は強引に笑って誤魔化した。

 

 ――その日の放課後。


 チャレンジの場所となる山にやってくる。


 とはいっても険しい獣道が入り組んでいるようなところではない。


 街の真ん中にある小さな山で、普段は散歩やジョギングのコースとして住民が出入りしている。


 山頂には公園もあり、疲れた身体を一休みするのにはもってこいの場所だ。

 

 僕たちは山を登る。


 荷物はライトと万が一の傘。


 君は双眼鏡を首にぶら下げていた。


 舗装された山道を登りながら、ときおり空を見上げる。


 夜空は真っ暗で雲の動きがわかりづらい。


 けれど星が出てないことはわかった。


 この感じだと晴れる見込みは薄い。


 しばらく歩いて山頂の公園につくと、ベンチに座って再び空を見続けた。


 やはり星は出ていない。


 それどころか頬に冷たいものが落ち、それが雨だと気付く。


 僕は素早く傘を差してなんとか濡れない状態をつくった。


 雨音に満ちた山頂は、虚しい沈黙で満ちている。


「……これって負け?」


 言いながら隣を見ると、君は双眼鏡を覗いて正面を見ていた。


「ふふ、勝ちだよ」


 と声を弾ませて指を差す。


 僕はその方向を見た。


 するとそこには――


 街の灯りがあった。


 きらきらした星空みたいに、人の営みが光になって瞬いている。


 僕は「アリなの?」とツッコむと、君は「ありだよ」と身体を揺らす。


 そして、嬉しそうに笑っていた。

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