第170話偶然が重なりすぎたらそれはもう○○

 たまたま上手くいくことがある。


 わたしが生きてきたこの十七年は、まさにそんな人生だった。


 たまたま道で拾ったサイフを交番に届けたら、落とし主からお礼をもらったり。


 たまたま商店街の福引で大当たりが出たり。


 たまたまテストの記号問題で満点を取ったり。


 運がわたしに味方してくれてる人生なのかなと、そう思えるほどの強運を発揮してきた。


 だから今回も大丈夫だと思っていた。


 たまたま通学路で見かけたあなたに、わたしは恋をしてしまった。


 一目惚れなんて、たまたまっぽくていい。


 これは偶然の女神が「告れ!」とエールを送っているに違いない。


 それならわたしのやることは一つ。


 たまたまを装ってあなたに接触を試みる。


 そしてたまたま落としたハンカチをあなたが拾って、そこから会話がはじまるの。

 

 いいわ、完璧。


 たまたま思いついた作戦にしては上出来。


 早速ハンカチを取り出して、わたしはあなたの前に飛び出した。


 するとどうだろう。


 たまたま地面に落ちていた100円を拾おうとしてあなたは姿勢を屈めた。


 そのせいでわたしはタイミングがズレてたまたま足がもつれる。


 そのままバランスを崩してたまたま信号が赤になった横断歩道に飛び出して――


 たまたま突っ込んできたトラックに衝突した。


 ああ、なんてことだ。


 わたしの人生はたまたまに呪われていたのね。


 でも仕方ない。


 これがたまたまの運命なのよ。


 そう受け入れたわたしは目を開ける。


 するとトラックに衝突する前の時間に戻っていた。


 あれ?


 どういうこと?


 どうやらあの瞬間、たまたま時空が歪んで数分前の過去にタイムスリップしていたらしい。


 たまたまが重なりすぎて、もはや偶然ではない。


 …………


 わたしは必然に愛された女子高生なのかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る