第169話僕は鍵をなくす。せっかくだからと君はアパートに招く
学校から帰ってきたら鍵がないことに気付いた。
確かポケットに入れていたはずだけど探しても出てくる気配がない。
カバンの中も靴の底もない。
これはどこかに落とした可能性が高いな……。
扉の前で途方に暮れていると、後ろから「どうしたの?」と呼びかける女の子の声がした。
帰宅した君だった。
余談だが僕と君は同じアパートに住んでいる。
部屋も隣だ。
事情を話したところ、とりあえずわたしのウチに上がっていったら? と提案してくれる。
偶然にもこのタイミングで空模様が怪しくなってきた。
一雨降られても困るので、僕は君の言葉に甘えさせてもらうことにした。
数分後、予想通りに雨が降りだした。
これでは来た道を引き返して鍵を探すのも困難だ。
窓の外を眺める僕の前に、君は麦茶を持ってやってくる。
お茶菓子を切らしているらしく、ちょっとコンビニに行ってくるから待っててと言い、そそくさと玄関から出ていった。
僕は一人、取り残される。
君の両親は共働きだから、部屋の中は静かだ。
寂しく麦茶を口にして、また窓の外を眺める。
辺りは静寂に包まれて、住人が生活している音が遠くで聞こえていた。
廊下を慌ただしく走る音や、干していた洗濯物を急いで取り込む音。
そういえばウチも洗濯物を出したままだったっけ。
君と同じく両親が共働きだから、このままだと濡れてしまう。
「大丈夫かなぁ……」
僕はベランダに出て確認してみた。
するとウチのベランダから人の気配がした。
そこには――
洗濯物を取り入れる君の姿があった。
しかも頭には僕の下着を被っている……。
「…………」
二人は目が合ったまま固まっていた。
そういえば以前にも鍵がなくなったことがあったな。
その時は僕の部屋から靴下がなくなったけど、つまり今までの犯行は――。
雨脚が強まる中、ニヤリと笑う君の後ろで、ピカッっと雷が光った。
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