第165話僕はフツウにカレーを作る。君は最強の隠し味を使う

 家庭科の授業でカレーを作ることになった。


 僕は各々が用意した材料を包丁で切りながら、それぞれの班の様子を窺う。


 ニンジンは小さいほうがいいとか、うちはジャガイモは入れないとか、作る人によって家庭の味や個性が見えておもしろい。


 そんな中、同じ班の君は持ってきた材料を袋から出して勝ち誇った表情を浮かべていた。


 スーパーの袋から出てきたのはチョコやグミといったお菓子だった。


「お楽しみ会でもするの?」


 僕が尋ねると、君は胸を張って言った。


「隠し味だよ!」


 確かにチョコとかコーヒーを入れるという話は聞いたことがある。


 しかし、グミとか入れても大丈夫なのだろうか?


 味の想像ができずに眉を顰めていると、君はさらにミルクティーやマシュマロを取り出した。


 この子は本気でお楽しみ会でも始める気か?


 不安が膨らむ中、君は腕まくりをして鍋を用意し始めた。


 さっきの隠し味とやらを全部ブチ込む気だ。


 まったく隠れる気のないスイーツを制し、僕はとりあえず君を説得した。


「一回フツウに作ろう!」と。


 一時間後――。


 暴れる君を押さえつけてなんとかカレーは完成する。


 口の中で野菜の甘みとピリッとしたスパイスが混ざり合いおいしい。


 一方の君は、さっき持ってきたお菓子をふんだんにトッピングしておいしそうに食べていた。


 僕は「それ、おいしいの?」と聞くと、君は「はい、あ~ん」と言って自分のスプーンにすくったカレーを僕の口の中に入れた。


 ……やっぱりお菓子が隠れてなくてスゴイ味だ。


 関節キスがどうとか言ってる場合じゃない。


 でも、おいしそうに食べる君を見ていると、なんでもおいしそうに見えてしまう。


 実はそれが最強の隠し味だったりして。

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