第163話ヨバイバル☆サバイバル

 それは満月の夜だった。


 二階の自室で窓を開けていた僕は、人の気配に気付き外を見る。


 するとそこには君の姿があった。


 全身を迷彩服に包んで、手にはアサルトライフルを構えている。


「これはモデルガンだから安心しろ!」


 と言っているが全然安心できない。


「なんでこんなところにいるんだよ!」と僕が言うと、


「わたしは夜這いしに来たんだ。つべこべ言わず中に入れろ!」


 君はそう言ってタクティカルブーツのまま部屋に入ってきた。


 依然として銃口は僕の額を狙っている。


 夜這いしに来たって?


 どう考えても何かと勘違いしてるだろ。


 僕は両手を挙げたまま質問してみる。


「あのさ、夜這いの意味わかってる?」


 すると君は、


「夜這いって……匍匐前進ほふくぜんしん的なアレでしょ?」


 と答えた。


 やっぱりわかっていない……。


 要は「夜襲」の類と勘違いしているのだろう。


 僕は落胆するようにかぶりを振った。


 君は頭に疑問符を浮かべながら、


「え? じ、じゃあ、あなたがお手本見せてよ!」


 と言ってくる。


 ――って、できるか!

 

 お手本とか顔が熱いわ!


 まったく……意味をわからずに言ってるから余計に恥ずかしい。


 君はむぅと頬を膨らませて、カチャッと銃を構え直す。

 

 と、その時。

 

 部屋の電気が消えて真っ暗になった。

 

 停電だ。

 

 こんな時にタイミング悪いなと思っていると、うすぼんやりとロウソクの灯りがともる。

 

 そこに現れたのは、さっきまで迷彩服を纏っていた君だった。

 

 どういうことか、今は絹のような裸身を晒している。


「停電も計算のうちだよ」


 狼狽える僕に、君は言った。


「最初から言ってるじゃん。夜這いしに来たって」


 そう言いながらニヤリと微笑む顔を見て、僕は初めて罠にかかっていたことに気づいた。


 最初から君の手のひらで踊らされていたんだ。


 …………。


 これから長い夜が始まる。


 はたして。


 僕は無事に朝を迎えることができるのだろうか――?

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