第162話学校の自動販売機で、疑似飲み会をやってみた

 ある日の昼休み。

 

 わたしは学校の中庭でジュースを飲んでいた。


 赤いベンチに座って午後のひととき。


 目の前には自動販売機がある。


 そこへあなたがジュースを買いにやって来る。


「おっす」と挨拶してきたので「よっす」と片手を挙げて返事をした。


 あなたはわたしの隣に座る。


 プシッと缶のフタが開く音がした。


 あなたは炭酸ジュースを一口含むと「はぁ~」と脱力したように顔の表情を緩ませる。


 空にはゆっくりと雲が流れている。


 わたしは何気なくこんなことを聞いてみた。


「ねぇ、お酒飲んだことある?」


 あなたはきょとんとこちらを向いて、また炭酸を呷る。


 ふと思ったのだ。


 お酒を飲んだ大人って気持ちよさそうだなって。


 さっきのあなたの表情を見てたら、なんかお酒が飲みたくなってきた。


 もちろん年齢的に飲むことはできないけれど、せめて気分だけでも体験してみたいと思う。

 

 ――こうして無理矢理あなたを巻き込んだ疑似飲み会が始まる。


 自分の想像する限りの酔っぱらいを演じてみた。


 とりあえずジュースを一口呷り、「ぷは~!」と言ってみる。


 けど、しばらくして物足りなさを感じた。


 ぷは~だけじゃ気持ちよくならないのかな?


 試しにあなたもやってみる。


 炭酸を一口含んで「くはぁ~!」と表情を作る。


 ……でも、なんかイマイチだなと首を傾げていた。

 

 空にはゆっくりと雲が流れている。


 残ったジュースを一気に飲み干して、わたしたちは顔を見合わせた。


「オトナになったら飲み会しようぜ」


 ――あなたはそう言い残し、赤いベンチから去って行った。


 中庭に予鈴が鳴り響く。


 よし、そのときは絶対おごってもらおう。

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