第161話命よりも大切なもの。~ギャル編~

 帰り道で焦っているギャルを発見した。


 よく見ると同じクラスの君だった。


 下を向いたまま視線を這わせ、なにかを探している。


 声をかけてみると「うわーん!」と涙目でしがみついてきた。


 ひどく動揺しているようなので落ち着くように促すと、「スマホなくしちゃったぁ……」と言う。


 そういうことか。


 やんわり無視しようと思ったけど、君がしがみついて離れなかったので仕方なく捜索することにした。


 なんでもスマホは命より大切なモノらしい。


 とにかく最後にスマホを見た場所を聞き出してみる。


 学校から帰る前に屋上で動画を撮ろうとしたらしいのだが、それ以降、取り出した覚えがないという。


 なら、そこに落ちている可能性は高い。


 僕たちは再び学校に戻り屋上へと足を運んでみた。


「ん? あれは……」


 視線の先に重たいくらいのストラップの束が見える。


 その下に埋もれたような長方形の物体。


 スマホだった。


 屋上の縁から落ちかけるように置かれたそれは、君がスリリングな動画を撮ろうとした証拠だ。


 フェンスを乗り越えて僕はスマホに手を掛ける。

 

 ……よし、回収だ。


 振り返って君にスマホを渡そうとしたその時、勢いよく吹いた突風で僕は身体のバランスを崩した。


 ぐるんと回る視界の空を眺めたまま、落下は避けられないと覚悟した。


 ――しかし君は反射的に僕の手首を掴んでいた。


 全身の力を振り絞って僕の身体を引き戻す。

 

 ……た、助かった。


 するといきなり君は涙目でしがみついてきた。


 びっくりした僕に「スマホよりも友達のほうが大事だし!」と君は言う。

 

 そんなことを言われたのは初めてだ。

 

 どう反応していいのか、わからない……。


 とりあえず、だ。


 しばらく泣き続ける君に、僕は鞄から出したティッシュをそっと差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る