第157話お風呂イベントに遭遇した僕は、君のフェチに耳を傾ける

 僕はお風呂に入っている。


 湯船に浸かって一日の疲れを癒していると、脱衣所から声がした。

 

 それは母親や妹ではない。

 

 なぜならさっき買い物に二人で出ていったからだ。

 

 じゃあこの人は誰?

 

 声を聞いてみると君とそっくりだった。


 長い髪のシルエットからしても、間違いなく本人だ。


「な、なんでこんなとこにいるんだよ!」


 僕は慌てて湯船に身体を沈める。


 君も動揺した声を上げた。


 学校で預かったプリントを持ってきたのだという。


 さっき表で母たちに会ったらしく、我が家への出入許可を得たらしい。


 うちのセキュリティゆるゆるだな……。


 ちなみにプリントはイラスト同好会のものだ。


 毎週好きなイラストを描いて見せ合ったり、改善点を見つけて互いの腕を磨いたりする集まりのことだ。


 僕も君も同好会の一員で、今回は「フェチ」といったテーマに沿ってイラストを制作するのだとか。


 君は浴室ドア越しに体育座りになり、ぶつぶつと話しはじめる。


 君は鍛えられた腹筋や上腕二頭筋のカタチにこだわりがあるらしい。


 あのメリハリのある稜線を指の先でなぞりたいとハァハァ言いながら興奮しているが、だ、大丈夫……?


 そう思っていると玄関から物音がした。


 どうやら母親たちが帰ってきたらしい。


 君は鍵を開けてくると言って脱衣所から離れていく。


 そして入れ替えでやってきた妹が、様子を見に浴室のドアを開けた。


 僕が「あいつ鼻血出てなかったか?」と聞くと「誰が?」と返す妹。


 さっきまでいた君のことを話したのだが、誰もいなかったと妹は首を傾げた。


 あれ? そんなはずは……。


 ――――


 これは余談だけど僕のフェチはお風呂イベントだ。

 

 いつかリアルで発生しないかと妄想したりする。

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