第155話毎回行われる漫研部の計画的制作進行

 漫研部に所属している僕は、キャラクターデザインが苦手だ。


 だから君が人物やストーリーを描いて、僕が背景を担当している。


 背景であれば細かいところまで描写する自信がある。


 任せてほしい、見た人を感動させてみせる!


 漫研部では締め切りを設けてマンガを提出することになっていた。


 僕は君と組んでいるため、二人で一組という扱いになる。


 基本は君のペースを僕がサポートするといった具合だが、今回も進行が遅れている模様。


 君は机の上で頭を抱えたまま、「もう描けない!」とペンを投げてしまった。


 その原因は明白だ。


 キャラクター同士の恋愛描写に違和感が生じているのだ。


 主人公の女の子がなんで男の子を好きになったのかわからない。


 ぼんやりしたままストーリーが展開してしまったせいで、うまく感情移入ができなくなっているのだ。

 

 僕は時計の針を一瞥した。

 

 時間がない。


 やけくその君は立ち上がり、「キャラのまねごとでもしてみる?」と僕の身体を押し倒そうとした。


 床に手を突いた僕の顔に、君の唇が触れようとする。


 その瞬間、「出番のようだね」と僕の中でスイッチが入った。


 背景担当の僕はキャラクターの内面に迫り、そこから人物の人生をシミュレーションする能力がある。

 

 つまり僕は、『人物の背景描写担当』。


 建物は描けないけど、キャラクターを説得力のあるものにする作業は得意だ。


 主人公の動機が見えてきたことで、僕たちは原稿を落とさずに済んだ。


 今回もなんとか事なきを得たわけだが、君はなぜか「たまには諦めろ!」と不機嫌な様子。


 毎回僕を押し倒すのに疲れてるのかな?

 

 でも大丈夫。

 

 疑似体験しなくても、僕が頑張って原稿を完成させるから。


 安心して任せてよ!

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