第152話穴の向こうに光を掴む。そしてあなたはもう片方を差し出す。

 わたしは耳掻きが趣味だ。


 自分の耳を掃除するだけでなく、他人の耳を掃除するのも好きだ。

 

 というより他人の耳を掃除するほうが楽しい。


 いつでも掃除できるように、学校の鞄にもマイ・耳掻きを常備している。


 今日も教室に理想の耳がやってきた。

 

 あなただ。


 その中身を一回覗かせてほしい。


 でもわたしの目を見るたび、あなたはササッと視線を逸らすのだ。


 とりあえず耳掃除をさせてほしいと頼んでみるが、あなたは首を横に振った。

 

 もしかしてわたしを警戒してる?

 

 お願い! 一回だけ!


 ところが授業が終わっても昼休みになっても、あなたは耳を貸してくれない。


 文字通り話も聞きたくないのか、わたしを避けるように放課後を迎える。


 むむむ……絶対逃がさないから。


 半ば強引だが、あなたをムリヤリ資料室へ連れて行き、鍵を掛けた。


 さぁ、寝てもらおうか。


 黙って横になるあなたの頭を膝の上にのせて、わたしはそっと耳の中をいじる。


 それから数分後――。


 あなたの耳の中はきれいになった。


「あ、ありがとう」


 そうお礼を言ったあなたは、起き上がろうとする。


 しかしわたしはその頭をガシッと掴んで、再び膝の上にのせた。

 

 まだだ。


 まだ終わっていない。


 耳をきれいにしたということは、よく聞こえるようになったということだ。


 だからわたしは耳元で本題を告げる。


 大事なことなので一回で聞いてほしい。


 この間の告白がOKなら、もう片方の耳を出して。


 それがダメならこのまま帰っていい。


 そう告げるとあなたは悩み、しばらくしてゆっくりわたしの瞳を見た。


 そして黙ったまま膝の上に頭を置き、反対側の耳を向けてくる。


 やった!


 そして静かな時間が過ぎていった――。

 

 よかった。


 胃袋は無理だけど。


 耳を掴むのは得意でよかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る