第148話二人は考える。六月に馳せるイマジネーション

 五月も末の放課後、あなたは教室に残って考え事をしていた。


 水溜まりのグラウンドを眺めながら、一人で真剣な表情を浮かべている。

 

 なにをしているのか聞いてみたところ、これから始まる梅雨の時期に備え、屋内でできる楽しいことを考えていたのだという。


 なるほどおもしろそうだ。

 

 今日は傘を忘れたので、暇つぶしに雨が収まるまであなたに付き合うことにした。


 まずわたしは引きこもって動画を観ると答えた。


 するとあなたは目を細めて「それ、いつもと変わらないだろ」と返してくる。

 

 そんなことないって。

 

 いつもは動画だけじゃなくて、お菓子もちゃんと食べてるよ。

 

 そう言うとあなたは、「よく太らないな……」と、また目を細めた。

 

 むむ……。


 そんなこと言うなら触ってみる?

 

 言いながら二の腕を突き出してみたけれど、「ちなみに俺の意見は――」とスルーされてしまった。


 無視するな。


 あなたは自分の部屋にプールを置いたらおもしろそうだと言う。

 

 自室でプールとか湿っぽいし片付けが面倒くさそう。

 

 どのみち外は湿っぽいから、家の中で濡れても平気とか言ってきた。

 

 なんか変わった考え方だ。

 

 じゃあついでにプールの中で動画を観ようと提案したら、「泳がないのかよ」とツッコまれた。


 じゃあ、観ながら泳いだらどうかな?


 そんな意見を言い合っているうちに、気付けば雨は止んでいた。


 雲間から光が覗き、グラウンドの水溜まりに空が映り込む。


 それからしばらくして、二人は教室を出た。


 わたしは「帰ったらなにするの?」と尋ねると「お菓子食べながら動画観る」とあなたは言う。


 それ、いつもと変わらないじゃんとツッコみながら。


 わたしはあなたの家に、遊びに行く。


 

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