第147話消しゴムになった僕は、授業中キミに拾われる。

 気付いたら僕は消しゴムになっていた。


 授業中に居眠りをしていたはずが、なぜ教室の床に落ちているのだろう?


 見上げると僕の本体は未だに居眠りを続けているし……もしかして魂が消しゴムに移っちゃったのかな?


 とにかく拾ってほしくて本体に呼び掛けてみる。


 しかし消しゴムが喋れるはずもなく、四角い身体を動かすこともできない。


 仰向けになって、ただ上を眺めることしかできなかった。


 そんなとき、ふと繊細な感触が僕を持ち上げる。


 拾い上げたのは君だった。


 四角い身体をまじまじと見つめ、これが僕の所有物であることに気付いたようだ。


 けれどそれを持ち主に返そうとする気配はない。


 授業中にもかかわらず、君は先生の目を盗んで奇妙な行動をとり始めた。

 

 最初は消しゴムを指先でつつく程度だった。


 それから円を描くように表面をなぞったり、軽く匂いを嗅いだりし始める。


 なんだかくすぐったい。


 消しゴムに鼻はついていないけど、君から香るほのかに甘い香りには、思わずうっとりとしてしまう。


 そんな君は人形を愛でるようにこちらに微笑んだ。


 なんだろうこの気持ち。


 胸の辺りがドキドキする。


 と、キミは不意打ちの如く消しゴムに口づけをした。


 ――え?


 僕は戸惑いとやさしい感触で頭がいっぱいになる。


 ――――


 ――というのはすべて僕の妄想。


 これらのストーリーをノートに書いているところを君に見られて、慌てて消そうとした。


 しかし消しゴムが床に転がって見つからない。


 ほんと恥ずかしさで死にそうなんだけど、ところでさっきから君は後ろ手を見せないのはなんでだろう?


 そこに握っているものは、なに?

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