第146話科学者のわたしは、海洋学者のあなたと、伝説の秘宝を手に入れる

 わたしは海底に沈んだ伝説の秘宝を探しに行くことになった。


 地上のほとんどが海に沈んだこの世界では、海底に資源が眠っている。


 科学者であるわたしは海洋学者であるあなたと組んで、揺らめく青の世界に出発した。


 科学の粋を結集した潜水艦は海底を進む。


 光から遠ざかるほどに、辺りは暗く冷たい世界に侵食されていった。


 気を紛らわすためにわたしたちは昔話をする。


 君は嵐の浜辺で調査を行っていたせいで怪我を負っていた。


 治療して面倒をみているうちに研究を手伝ってもらい、今ではよきパートナーだ。


 あの日が懐かしい。


 と、そこで船体が大きく揺れる。


 外を覗くと、巨大な潜水艇がこちらをアームで掴んでいた。


 モニター越しに現れたのはなんと海底人。


 基地に連れて行かれたわたしたちは、水槽に入れられた。


 彼らは地球を壊す地上人を恨んでいるという。


 地上を攻める前に、まずはわたしたちを始末するつもりだ。


 水で満たされた水槽では息ができない。


 わたしは諦めて目を伏せるが、ふとあなたの唇が触れた。

 

 人工呼吸だ。

 

 そしてあなたの首元には、隠れていたエラがあらわになる。


 自分の正体を晒したあなたは、水槽を解放させ同胞の前で資料を見せる。


 それは科学で地球を救おうとしているわたしたちの研究結果だった。


 人類がみな破壊を望んでいるわけではない。


 それをあなたは力説した。


 ――数カ月後。


 海底と地上では同盟が結ばれる。


 共にこの星を守るためだ。


 わたしは質問する。


 そういえば伝説の秘宝って実在するの?


 するとあなたはわたしの手を取り、薬指を夕日に翳した。


 唐突なプロポーズを許してほしいと言う。

 

 つまりはこういうことだ。


 海底では太陽のことを、秘宝と呼んでいたらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る