第145話カレンダーの赤、お祝いの日、そして前夜祭

 教室の後ろに掛けてあるカレンダーに謎の印が記入されていた。


 今日の日付に赤いペンで書かれているが、なにやら奇妙な形をしている。

 

 五芒星のようないびつな筆跡は、まじないや悪魔を彷彿とさせた。


「なにやってんの?」


 そこへ嬉しそうに身体を揺らして、君が僕の顔を覗き込んでくる。

 

 覚えのない印を指差して、僕はこれの意味するところを問うてみた。

 

 しかし君も首を傾げるだけで、印の意味を知らない様子。

 

 誰かがイタズラで記入したのだろうか?


「そういえば……」


 そこで君は思い出したように呟く。

 

 数日前から学校を休んでいる先生に変な噂が立っているというのだ。

 

 なんと自宅で悪魔を呼び出そうとして大怪我を負ったという。

 

 オカルトの趣味があるのは知ってたけど、何をしたらそうなるんだ?

 

 じゃあこの印も先生が書いたってこと?

 

 訝し気な表情を浮かべていると、君がクツクツと笑いはじめた。


「さぁ、悪魔の登場よ」


 喋り終えた瞬間、引き戸が開いて僕の後ろに誰かが立っていた。

 

 それはまごうことなき悪魔――ではなく噂の先生だった。

 

 手には大きなケーキを持っている。

 

 そして続々とクラッカーを鳴らして教室に入る生徒たち。

 

 なんだこれは?


「実は今日、先生が退院する日なんだよ」


 君はケーキナイフをかざして言った。

 

 僕は知らなかった。

 

 先生が入院していたことを。

 

 つまりこのカレンダーの印は、退院祝いを記すものだったのか。

 

 謎が解けてすっきりした。


「せっかくなんでケーキは僕が切り分けるよ」


 そう言って振り返った瞬間、僕は天井を見たまま倒れていた。

 

 ……あれ? どうしたんだろう?


 視線を落とすと、赤く染まる腹部にナイフが。

 

 君は指先でそっと鮮血をなぞり、教室にいびつな魔法陣を描いてこう言った。


「さぁ、儀式の続きよ――」

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