第144話わたしは無人島、あなたはいつも裏側で。

 目を閉じれば瞼の裏に浮かんでくる。


 それはお菓子とかお気に入りの洋服とか、いわゆる他愛もないものだ。

 

 そして目を開けるとわたしはどこかの島にいた。


 傍らには食料などを詰め込んだ大きなリュック。


 ……なんでこんなところにいるんだろう?


 まるで記憶がない……。


 全く思い当たる節がないわたしは、ひとまずこの島を探索することにした。


 調べた結果、ここは小さな無人島だった。


 電気もガスも通っていない。


 多少の動物はいるけど、話し相手には物足りないな。


 近場に船も港もないから、この島を出ることができない。


 スマホもどこかに紛失しているから、助けも呼べない。


 はぁ……仕方ない。


 わたしはこの島で生活することにした。


 無人島での生活は初めてだったけど、これが意外にもなんとかなった。


 リュックに備えがあったおかげかもしれない。


 娯楽がない島だから退屈はしたけど、日々の中で妄想する遊びを思いついた。


 目を閉じると瞼の裏にいろんなものが浮かんでくる。


 最初のころはお菓子や洋服が、数週間もすれば遊園地や友達の顔が浮かぶようになった。


 が、一つだけ思い浮かばないものがある。


 それは確か大切なものだった気がするけど……。


 そんなある日、水平線の向こうから一隻の船がやってきた。


 中から出てきたのは警察の人だ。


 わたしに一枚の写真を見せて質問してくる。


 そこでぼんやりしていた記憶がはっきりと浮かんできた。


 同時にわたしは膝を突いて涙を流す。


 写真に写っていたのは「わたしが葬った相手」――あなただった。


 ささいなことがきっかけで、この世界や記憶から消してしまった。


 連行されるわたしは目を閉じる。


 そこにはお菓子も洋服もない。

 

 あなたと過ごした想い出の日々が、気泡のように浮かんでは消えていった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る