第142話あなたは返事を返す。わたしは黒い魔物に追われる。
ある日を境に魔物が現れた。
魔物といっても爪や牙を剥き出しにして人を襲うようなものじゃない。
細菌が変異したもので、見た目は空中を漂う黒い煙の塊だ。
室内にいれば接することもないので安心。
ただ、天気の悪い日は活動が活発になるので、外出するなら晴れの日に限る。
とにかくこれを駆除するまでは学校も休みになった。
わたしたちは家での生活を強いられることになる――。
毎日家の中で勉強、運動、娯楽のルーティン。
これ自体はなんら問題ない。
だけど気がかりが一つある。
わたしはスマホを学校に忘れてしまったのだ。
自宅待機が決まる前日のこと。
わたしはあなたを映画に誘ったが、返事をもらう前にこのような事態になった。
まぁ、脈はなさそうだけど、どのみちこんな状況じゃ意味なかった。
あなたの返事は忘れて、とりあえずスマホを取りに行こう。
外は晴れだし、ママには学校へ行く旨を書き置きして玄関の扉を開けた。
しかしその道中で大変なことが起こる。
突然のにわか雨。
これに反応した魔物は次々と姿を現した。
もし触れてしまったら高熱を出して長い間苦しむことになる。
わたしは必死で逃げたが、次々と道を塞がれて袋小路に追い詰められた。
もうダメだと目を伏せたとき、「こっちだ!」とあなたが手を取って進路を確保した。
なんでここに?
どうやら映画の件でスマホに連絡したが、反応がないので胸騒ぎがしたという。
わたしの家でママに話を聞いて、学校に向かったことを知ったらしい。
助かった……。
なんとか学校に隠れたけど、しばらく外には出ないほうがいい。
映画もしばらくおあずけだ。
「…………」
沈黙のあと、あなたは少し考える。
そして目を泳がせたあと、咳払いを一回してわたしを視聴覚室に誘った。
「えと、ここなら映画観れるけど……どうかな?」
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