第138話ニセモノのわたしはデートを重ねる。そして墓石は二つになる

 あなたは毎日わたしの前で土下座した。


 ――ちなみにここは学校だ。


 周りの目があるからやめてほしいとわたしは頼む。


 どうしても恥ずかしがり屋の性格を直したいらしく、わたしに協力してほしいのだとか。


 何回ことわっても、あなたは諦める気配がない。


 ……こう何度もこられては困るので、仕方なくわたしは協力することにした。


 さて、どうやって恥ずかしがり屋を直すかということだが。


 方法は簡単だ。


 それは恋人のフリをして免疫をつけるというもの。


 完璧なニセ彼女を演じて恥ずかしがり屋を消去してやる。


 あなたはそんなのムリだ! と拒否したが、土下座するヤツが何言ってんの? と言い返してやった。


 大丈夫、マンガじゃあるまいし本気であなたを好きになることはないから。


 その日以降、わたしたちはニセモノを演じ続けた――。


 放課後は毎日デートをした。


 公園に洋服屋に映画館――あらゆる場所で二人は時間を共にした。


 が、わたしはどうしても行きたくない場所がある。


 それは墓地だった。


 おばけが怖いから絶対行かないと言っていたのだが、あなたは一人でその場に踏み込んでしまった。


 あれほど言ったのに。


 そして――


 そこで見てはいけないものを見てしまう。

 

 ――――


 それはわたしのお墓だった。


「残念……」


 わたしは鞄から銃を抜いた。


 そして、


 あなたを撃った。


 なぜこのようなことになったのか?


 真実はこうだ。


 あなたは暗殺組織の人間だった。


 しかし、過去に恋人のわたしを始末したショックで記憶を失っていたのだ。


 幸い致命傷を免れたわたしは、ニセの墓石を立てて別人に成り済ます。


 学生として生活しながら、今まであなたを監視していたというわけ。


 ……さて、墓を見られてはもうこの生活も続けられない。


 どこかへ身をくらまそう。


 幸い組織で貯めたお金は山ほどある。


 あなたの墓石を立てたわたしは、学校からもこの街からも姿を消した――。


 ――そして現在。


 とある島国で、あなたは相変わらず土下座を続けていた。


 なんでも、もう一度二人でやり直したいというのだ。


 せっかく死体まで偽装したんだから、どこかで自由に暮らせばいいのに……。


 あんまりしつこいから「ほんとに撃っちゃうぞ」とからかってみる。


 だけどそんなこと言ってるわたし自身、ちょっと嬉しかったりするのはあなたには内緒。

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