第136話部屋を片付けられないわたしは、少しずつあなたの想い出を手に取る

 探し物が見つからない。


 わたしは部屋を見渡して頭を抱えた。


 とても大切にしていた宝物なのにどうしよう。


 ここへきて、ずさんな性格の自分を恨んだ。


 とはいえ棒立ちしていても始まらない。


 ここは気持ちを切り替えて探し物を見つけよう。


 狭い部屋を見渡して、わたしは口元を引き結ぶ。


 散らかったマンガやゲームに手を伸ばし、一つ一つを箱に仕舞っていく。


 頭がクラクラするほど汚い部屋だが、それでも手にしたモノからはきれいな想い出を感じていた。


「このマンガ、あなたのお気に入りだっけ……あ、ゲーム返すの忘れてた」


 片付けが進むほどに想い出を噛み締める。


 あなたと遊んだ日やケンカした日々――それらすべてがきらきらと脳裏に浮かんでは消える。


 いつしかゴミ箱みたいだった部屋が宝石箱みたいに輝いて見えた。


 片付けているうちに、焦っていた気持ちも落ち着いてくる。

 

 大丈夫、きっと宝物は見つかる。

 

 そんなふうに思えてきた。


 部屋を片付けているつもりが、気持ちの整理につながったのかもしれない。


 余計なことを考えなくなったというか、今は部屋をきれいにすることに集中している。

 

 さぁ、あと少しだ。


 姿勢を低くしてベッドの下に手を伸ばすと、コツンと指先に触れるものがあった。


 見つけた。


 期待に胸を膨らませ、わたしはそれを取り出す。


 とても大切にしていた宝物。


 それをようやく見つけることができた。


 『あなたの右腕』。


 マンガを読むにしてもゲームをするにしても、わたしはその美しい右腕が好きだった。


 しばらく借りていたけど気持ちの整理がついた。


 待ってね、いま返しに行くから。


 わたしはスキップで玄関を出る。


 ――土の下で眠る、あなたのもとへ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る