第134話手のひらで繰り返されるバッドエンドと、幸せへのリテイク

 わたしはこの小さな世界に閉じ込められて一生を終える。


 それが定められた運命だった。


 とはいえ牢屋に閉じ込められているわけでも、人里離れた塔の中に幽閉されているわけでもない。


 どちらかといえば自由だ。


 なんでもあるしなんでもできる。


 法律も規則もない。


 無限大に広がる世界。


 それがわたしがいる場所だ。


 外からこの世界を見た人は、果たしてなにを思うのだろう。


 わたしやそれ以外の人物が繰り広げる人生を目の当たりにして、一喜一憂しているのだろうか。


「ごめん、待った?」


 ――そんなことを考えていると、あなたがやってきた。


 デートに遅れてくるなんてサイテー。


 ま、もうそんなの慣れちゃったけど。


 過去に2000回くらい遅刻してるから、どうでもよくなってきた。

 

 それより今日はどこ行くんだろ?


 期待して顔を覗き込んでみるとあなたは、


「遊園地に行こう」


 と言う。


 わたしは「やったー!」と言いながらも心の中でため息をついていた。

 

 もう5000回くらい行ってるし。

 

 でも慣れたからいい。


 それよりも問題なのはこのあとだ。


 わたしは楽しそうに会話しながらも、来るべき瞬間に身構える。


 そしてデートがクライマックスに入ったそのとき――


 ――あなたは雷に打たれて死んでしまった。


 わたしが「チッ、またかよ」と呟くと同時に、小さな世界が白紙に塗り替えられて最初に戻る。

 

 700文字という制限の中、あなたが死んだ回数は10000回に及ぶ。


 死に過ぎだろ。


 というかいきなり落雷とかないわ。


 この世界を創ったヤツに100万ボルト食らわせたい気分。


 そう。


 わたしはこの「掌編」という世界で、一生を終えるヒロインにすぎない。


 それが小説の中に生まれた者としての運命。


 ……だけど。


 ……それでも。


 いつかは、あなたとハッピーエンドを迎えたい。


 そんな未来を想像しながら。


 今日も文字の世界を、繰り返す。

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