第133話未婚の僕は文字を綴り、学生の君は新婚の真似事をする

「ごはんにする? お風呂にする? それとも――」


 君は前のめりになって新婚の真似事みたいなことを言う。


 第一、僕たちは高校生だし結婚もしていない。


 というかそんなこと言ってる場合じゃない。


「これ」を終わらせない限りごはんの味なんてわからないし、ゆっくり湯船に浸かることなんてできそうもないからだ。


 僕はメガネの位置を正して返答した。


「小説を書くよ」


 ――僕が小説を書き始めたのは中学生のころ。


 ライトノベルにハマり、高校生になってからはプロの作家になりたいと思うようになった。


 それから投稿を繰り返しているけど落選が続いている。


 君はそんな僕の小説を好きと言ってくれる変わり者だ。


 ダメダメな小説だけど、わたしがプロデュースしてあげると言ってなにかと協力してくれる。


 さっきのくだりだって新婚の気持ちがわからない僕のためにわざわざ演技してくれたんだ。

 

 ……顔が近くてドキっとしたのは内緒だけど。

 

 とにかくこのままじゃいけない。


 もう一年もせずに卒業だ。


 就職か進学か……いずれにせよ進路を決めないといけない。

 

 ――数カ月後。


 投稿作の結果発表の日。


 ウェブサイトに僕の名前は……なかった。


 落選したんだ。


 隣でその様子を見ていた君は、黙ってその場に立ち続けた。


 ――あれから二年、学校を卒業した僕は就職してネクタイを締める。


 そんな僕は帰宅後にPCの電源を立ち上げ動画を観る……のではなく、小説を書いていた。


 仕事に行きながらも僕は投稿を続けていた。


 相変わらずダメダメな小説だけど、心強いパートナーがいるから頑張れる。


 そんな同居人はいつもの調子でこう言った。


「ごはんにする? お風呂にする? それとも――わ・た・し?」

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