第127話悪癖を抱えた君と、発火する生徒の呪い

 図書室にて、僕は読んでいた小説を突然叩き落とされた。


 視線を上げると君が、


「ご、ごめんなさい……」


 と気まずそうに目を伏せている。


「昔から本を叩く悪癖があるの」


 図書委員の君はそう自己紹介をした。


 そう、探偵である僕に怪事件を解決させるために依頼してきた本人だ。

 

 今、学校では図書室で本を借りた人が謎の発火に見舞われる事件が起きている。


 本を管理する君からすれば怖くてたまらないのだろう。


 落ちた古い小説を拾い上げ、僕は事件の調査に乗り出した。


 調査をする上で依頼人との信頼関係は必須だ。


 なので始めは何気ない世間話をして距離を縮める。


 そのうち君は自分のいろんなことを話してくれるようになった。


 本を叩く悪癖が生まれたのは、幼いころ小説家の父が焼身自殺を図ったことが原因らしい。


 いつも優しい父はアイデアに行き詰ると狂ったように暴れたそうだ。


 当時の君は呪いか何かと思い込んでいたという。

 

 調査が進むにつれて僕は一つの真相に行きついた。


 犯人を図書室におびき出すため、僕は君に協力を仰ぐ。


 そして迎えた放課後――犯人は僕の前に現れた。


「どうしてわかったの?」


 首を傾げたまま君は言う。


 正確には君の裏の人格だ。


 幼い頃、暴れる父が呪われていると思っていた君は、書斎ごと父を燃やしてしまった。


 悲惨な現実から目を背けるほどに二つの人格は乖離する。


 今回、発火した生徒は呪いから守るという理由で燃やされていた。


 君は救おうとしただけだった。


「大丈夫、救ってあげる」


 そう言って君は火を放った。


 僕にではなく、君自身に。


 こうして大火傷を負った君は記憶を失う。


 ――数日後。


 僕は入院している君のもとへお見舞いにいく。


 病院は退屈だろうから、一冊の小説をここに置いておくよ。

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