第125話100万年生きた僕が、記憶を色に変える君に消される

 僕は100万年生きた少年だ。


 魔女の呪いとかいうやつで死なずに生き続けている。


 見た目も少年のままだ。


 長く生き続けたせいで人生に飽きてしまった。


 誰か僕を終わらせてほしい。


 途方もなく世界を放浪しているとき、君に出会った。


 丘の上にある小屋で一人暮らしをしている少女。


 どうやら君も魔女の呪いを受けた一人のようだ。


 小屋の中にはキャンバスに描かれた絵がいっぱい並べてある。


 人のいないこの近辺で、どこから絵具を調達したのだろう?


 聞くところによると君は、人の記憶を色に変えてしまうらしい。


 僕はそれを聞いて思いついた。


 100万年分の記憶を色に変えてもらおう。


 そうして記憶を消せば死んだも同然だ。


 さっそく頼み込むと君は僕の頭に右手をのせる。


 すると左手から色の霧がふわりと出てきて、キャンバスにイメージした絵を描き始めた。


 100万年分の記憶を取り出すには時間がかかる。


 そのため僕はこの小屋に住まわせてもらいながら、色を取り出してもらうことにした。

 

 ご飯を作ったり森を散歩したり他愛もないおしゃべりをしたり――いつしか過ぎ行く季節の中で、僕は君との時間を愛おしく思い始めていた。


 そしてキャンバスの絵が完成間近になった春のこと、ためらう僕から君は最後の記憶を取り出した。

 

 これが最期だ。


 ついに君との想い出も色に変えてしまった。


 絵は鮮やかな心の色を定着させて完成した。


 …………


 ……あれ、僕は誰で、なんでここにいるのだろう?


 そして君は誰?


 頭が混乱しているところに美しい絵が目に留まる。


 なんて綺麗なんだろう。


 これを描いたのは君かい?


 そう言うと君は、


「よかったら絵の描き方を教えてあげる」


 そう言ってにっこりと微笑んだ。


 ――この日から僕たちは時間をかけて。


 二人で真っ白なキャンバスに絵を描いていく。

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