第124話月夜に変身したネコは、あなたのもとでお弁当を食べる

 わたしは人間の姿をしたネコ。


 昔、怪我をしていたところをあなたに助けてもらって一命を取り留めた。


 そのお礼がしたくて夜空にお願いしていたら、月がわたしを人間にしてくれた。


 言葉も喋れるし肌もスベスベ。


 月の力は廃墟のお寺を真新しい住居に変えて、人間のわたしに知識を与えてくれた。


 そして次の日から学校というところに通うことになる。

 

 やった。

 

 あなたに会えるんだ。


 わたしはコーコーセイ? の二年生で転校してきたという設定らしい。


 なんだか緊張する……。


 はじめての学校はとても賑やかなところだった。


 先生という人は毎日難しい話をしていて、頭が痛くなる。


 勉強は苦手だけど、でもお昼の時間は好きだ。


 ついイイ匂いにつられていろんな人のお弁当を見ていると、クラスのみんながおかずをくれる。


 う~ん、にゃんていい人たちだ。


 はむはむ……。


 と、焼き鮭に夢中になってる場合じゃにゃい。


 あなたはどこにいるのだろう?


 どうやらお弁当を持って、どこかへ行ってしまったようだ。


「どこに行ったのかにゃ?」


 わたしはあなたの教科書のニオイを覚えて、あとを辿る。


 すると鍵が外された屋上に出た。


 あなたは一人でお弁当を食べている。


 気のせいか寂しそう。


 とにかくお礼を言わなきゃ。


 わたしが背中から声をかけようとしたそのとき、あなたの食べていた唐揚げが目に入る。


 思わず「それちょうだい!」と言ってしまった……。


 あなたはびっくりしてこちらを見る。


 わたしもびっくりして固まってしまう。


「…………」


 なんともいえない沈黙が流れたけど、あなたはわたしに唐揚げをくれた。


 まさかくれると思っていなかったので、わたしは嬉しさのあまり飛びつく。


 そして唐揚げはあまりにもおいしかった。


 わたしはお礼を言うのも忘れて、


「ねぇ、明日もそのお弁当食べていい?」


 と言ってしまう。


 意味不明な物言いに、しかしあなたは笑顔でうなずいてくれた。


 一緒に食べる人ができたのが、嬉しかったみたい。


 ――次の日。


 あなたはお弁当の唐揚げを箸で持ち上げ、こんなことを言う。


「昔お寺で会ったネコにもこれ、あげてたんだ」


 って。


 ――わたしは思わず、喉を詰まらせそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る