第123話ニワトリと全力で格闘した君は爆発寸前の小屋の中で――

 君はニワトリと戦っている。


 学校のニワトリ小屋に閉じ込められて数時間、僕はそのシュールな光景を祈るように見守っていた。


 君はニワトリの後ろにある卵を狙って手を伸ばすが、そうはさせまいと相手はクチバシで抵抗する。


 卵を狙うには理由があった。


 そうしないとこの小屋は爆発するからだ。

 

 なんでこんなことになってしまったのか。


 ――遡ること数日前。


 僕は学園祭の売上金を持ち逃げしたとして濡れ衣を着せられる。


 まったく身に覚えのない話だったが、どうも噂を流したのが君だというのだ。


 そのあと誤解は解けたものの、しばらく悪評は流れ続け、今でも僕が犯人だと疑う人もいる。

 

 単純に腹が立った。


 復讐といえばなんだが、君をニワトリ小屋に閉じ込めて事の経緯を聞き出そうとした。


 普通に尋問しても白状しないだろうからな。


 ところが君と僕は何者かに襲われ、二人とも小屋に閉じ込められる。


 そいつは売上金を奪った真犯人だった。


 噂を流したのもコイツ。


 犯人は小屋の外から真相を語りはじめる。


 濡れ衣を着せて僕たちを始末するというのだ。


 爆弾装置に乗っかった卵を取らないと小屋は吹き飛ぶという。


 無茶苦茶な話だが、もう考えている暇はない。


 切り傷をつくりながらも、僕たちは卵を奪うために奮闘した。


 僕は途中でへばってしまったが、君は諦めない。


 その姿に奮い立たされた僕は、最後の力を振り絞る。


 卵に手が届きそうになった瞬間、しかしタイムリミットになって小屋が爆発した。


 反射的に君を庇った僕は、最期に


「疑ってゴメン……」

 

 と言い残し力尽きる。

 

 ――――


 ――その姿を見届けた君は、売上金で逃亡した犯人を追い詰めて、ヤツをニワトリのエサにする……という演劇部の脚本を書いたのだけれど、学園祭で使えないと却下された。


 なので僕は書き直しのためにニワトリ小屋に入り、缶詰めになっている。

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