第122話抑圧されたお姫様は、保健室で鏡の城の夢を見る

 放課後、わたしとあなたは協力して姿見を保健室に運ぶことになった。


 身長より高いそれをダンボールに入れて、二階から一階へと移動する。


 が、その最中にわたしが階段を踏み外して踊場へと転落した。


 頭を打って朦朧とする意識の中、あなたの必死な声が遠くなっていき、やがて視界が真っ暗になる。


「ここは……?」


 しばらくしてわたしは目を覚ます。


 てっきり死んだのかと思ったけど、生きていたようだ。

 

 ひとまず胸を撫で下ろす。


 しかしここはどこだろう?


 学校で転落したはずなのに、全く知らないお城の中にいた。


「これは……?」


 赤い絨毯が敷かれた大広間には、たくさんの姿見が並べられてあった。


 ここの主は鏡が好きなのだろうか。


 なんとなくその一つを覗いたわたしは思わず目を見開く。


 制服を着ていたはずのわたしは、お姫様みたいなドレスを身にまとっていた。


 いつの間にこんなものを!?


 さらに驚くべきは、姿見の一つ一つが人格を映していて、それぞれが違うわたしとして話し掛けてきた。


 頭が混乱しそう。


 自分の中にある何人もの自分と対峙したわたしは、やがて気付かなかった自分を知ることになる。


 普段は周りの目を気にして過ごしているけど、本当はそんなおとなしい性格ではない。


 言いたいコトもやりたいコトもいっぱいある。

 

 ――それを認識したとき、わたしは保健室のベッドで目を覚ました。


 視界に映ったのはあなたの心配そうな顔。


 どうやら付き添ってくれたらしい。


 わたしはお礼を述べて、そのまま顔ごとあなたの唇を奪う。


 傍に立てかけられた姿見には、言葉を失うあなたとわたしの姿。


 けど、不敵に笑うその表情は、鏡の城のわがままなお姫様だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る