第119話不審な学生が犬に怒られて感謝する

 僕は不審な高校生だ。


 といっても本当に怪しいわけじゃあない。


 周りからそう呼ばれているだけだ。


 というのもオドオドした態度が原因らしい。


 人と話すとき、最適な言葉が浮かばずに目が泳ぐ。


 そして喉が詰まり会話なんてできない。

 

 それが僕だ。


「こんにちは」


 そんな僕にも声をかけてくれる人がいる。


 いつも公園で犬の散歩をしている君だ。


 長い髪をさらりと揺らしながら微笑む君は、お金持ちのお嬢様みたいで輝かしい。


 僕が落ち込んでベンチに座っているところに声をかけてくれたのが出会いのきっかけだ。


 恥ずかしながら僕は一目ぼれしてしまう。


 それと同時にふつふつと沸き上がる感情があった。


「君と話がしたい」


 僕はその日以降、頑張って話しかけるようになった。


 ところがそう上手くいくはずもない。


「こ、こんにちは」

 

 と挨拶に詰まった瞬間、君が連れている犬がワンワンと吠えた。


 びっくりしながらも、僕は考えてきた内容でさり気なくコミュニケーションを図る。


 しかし僕の仕草や言葉のチョイスはいまいち……。


 君の反応が悪いと、すかさず犬に吠えられた。


 まるでやり直しを命じるように鋭くツッコむ犬。


 ひょっとしてダメ出しをしているのだろうか?


 そんなことを繰り返して一年が過ぎたとき、僕は思い切って告白した。


 ……結果はダメだった。


 君は申し訳なさそうにお辞儀をして、それ以降は会うこともなかった。


 ――それから三年が過ぎる。


 ホストになった僕はナンバーワンにこそ程遠いが、昔よりは喋れるようになった。


 辛いこともあるけど、会話するのが楽しくなった今は「師匠」に感謝している。


 今度、店にも呼びたいけど、ウチは「動物の入店はお断り」だっけ。

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