第118話すべてを呑み込む丸い物体が、古びた机を絶賛した

 わたしは全てを呑み込む丸い物体だ。


 呑み込んだものは身体に吸収される。


 身体の形を自由に変形できる未知の生物なのだ。


 地球にやってきて女子高生として過ごしたこの三年は実に新鮮で楽しかった。


 なにより心の文化を教えてくれたあなたには感謝している。


 ちなみにあなたはわたしの正体を知らない。


 そんなあなたは卒業を前にして、アート作品を発表すると言い出した。


 教室の古びた机を集め、それをカタチにするらしい。


 ただ、その表現方法が難しいらしく、頭を抱えていた。


 わたしはそんなあなたの相談に乗り、何度も意見を言い合って試行錯誤を繰り返す。


 そしてある日、屋上に大量の机を運ぶとあなたは言い出した。


 わたしはなるべくたくさんの机を呑み込んで、屋上に運ぶ。


 みんなにバレないようにやったから、あなたは机がいつの間にか屋上にあることに驚いていた。


 何はともあれ屋上に積み上がった机のオブジェクトが完成する。


 西日が机の背後から照らす時、地面に映った影がハートの形になる仕掛けだった。


 アートは成功しクラスのみんなは大喜び。


 みんなで記念の写真を撮った。

 

 それから時は経ち、学校を卒業したあなたはアーティストとして活躍するが、納得のいく作品ができないようだ。


 わたしはあなたの助手を務めていたが、あっという間に二人はおじいちゃんとおばあちゃんになり、あなたが先に死んでしまった。


 わたしは一通の手紙を見つけ、そこにわたしの正体のことや、今までの感謝の気持ちがつづられていることを知る。


 静かになった部屋の中で、わたしはあなたを呑み込んで「とある形の石」になった。


 どう、これで満足?


 手紙の記述通り、わたしたちは一つのハートになった。

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