第117話呪われたゲーセンの天井と、涼しすぎてハイスコアを目指す

 僕がよく通うゲーセンは、夏でもひんやりしていて気持ちがいい。


 音ゲーで汗を流したあと、待ちイスに座って飲むジュースが最高だ。


 ただ、この店のエアコンは年中故障している。


 では、なんで涼しいのかというと、答えは天井にあった。


「ほんとに幽霊の呪いなのかな……」


 店内の天井を見上げると、大きなシミが広がっている。


 それが幽霊の呪いと噂され、常連の間ではちょっとした怪談話になっていた。

 

 でも、それが涼しさと関係あるのか疑わしい。


 僕はあまりそういう話は信じないんだ。


「こんにちは」


 ――天井を見上げていると、そのシミから女の子の幽霊が出てきた。

 

 いきなりすぎるだろ。


 僕は飲んでいたジュースを吹き出してむせ返る。


 状況を整理するヒマもなく、女の子の幽霊は僕の隣に座ってこんなことを言った。


 なんでも、ハイスコアを叩き出す前に不運な事故で死んでしまったらしい。


 一目でも更新したスコアを見れば成仏できるらしいから、協力してほしいという。


「……」


 僕はしばらく考えたが、困っている幽霊を放っておくことができなかった。


 なんか切なそうにこっちを見てるし……。


 これでも一応ゲーマーだ。


 ハイスコアの更新を目指してみよう。


 こうしてその日から、僕はいつも以上に音ゲーに没頭した。


 没頭しすぎて汗だくになっても、君がふーっと息を吹きかけてくれるから熱が冷める。


 う~ん……なんて便利な息だ。


 そんなこんなで二カ月が過ぎたある日、僕はスコアを更新することに成功した。


 幽霊の君は


「ありがとう」


 と言って成仏する。


 シミは消えたが、なんだか寂しい……。

 

 それ以降、エアコンの壊れた店内は、蒸し風呂みたいに熱い。


 そんなゲーセンでただ一人、僕だけがなぜか涼しく音ゲーに没頭していた。


 どうしてだろう?


 そういえば画面にぼんやりと、横ピースした女の人の影が映っているのは気のせいかな?

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