第114話気の弱い暗殺者が人生二周分の報酬で組織を壊滅させる

 わたしは暗殺者だ。


 普段は高校生。


 裏では密命を受けて、悪い政治家や資産家を始末している。


 そのほか表沙汰にできない仕事は、だいたいやってきた。


 しかし気が弱いせいで、ここぞというときにミスをしてしまう。


 依頼を達成できない日々が続き、このままでは代々受け継いできた裏家業を失ってしまう恐れがあった。


 そんなとき命令が下った。


 政府との仲介役であるあなたは、新たな暗殺命令をわたしに言い渡す。


 銃器密売組織を壊滅してほしいとのことだ。


 成功報酬は人生を二周してもおつりがくるほど。


 渡された前金でメンバーを集め、組織壊滅の指揮をとってほしいとのことだ。


 人選は自由。


 きっとこれが最後のチャンスだ……裏稼業の経験値が試される。


 作戦実行の日、事態は思わぬ展開を見せた。


 わたしが組織した部隊は首尾よく組織を壊滅し、仕事は成功したかに思えた。


 ……が、またしてもわたしが担当したエリアだけ最悪の状況だった。


 敵に囲まれて袋の鼠。


 四方から浴びる銃口のプレッシャーに、このときばかりは命を諦めた。


 ――しかし、そんなとき浮かんでくるのはあなたの顔だった。


 仕事でミスしたわたしをよくかばってくれたことを思い出す。


 本当は好きだったけど気持ちは伝えていない。


 でもいいんだ。

 

 仕方ないよね。

 

 仕方ない……。


 そう言い聞かせようとするほどに、生きたいという気持ちが湧き出した。


 引き金は死への恐怖か、あなたへの愛なのか。


 気付けば周囲の敵は全滅していて、わたしは前金を手にしたまま、闇夜に紛れて身をくらませていた。


 それからというもの、わたしは政府から逃げ続けている。


 こちらの行方を追うあなたのことを想うと胸がドキドキするけれど、捕まったらアウトなので、わたしは自分の気持ちを殺し続ける。

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