第112話ファンシーなイチゴ農園とオカルト部の煉獄ケーキ

 わたしはファンシーなイチゴ農園でバイトをしている。


 小鳥のさえずりが木霊する森の奥のビニールハウス。


 学校が終わるとスクーターに跨り、イチゴをデリバリーする毎日だ。


 ある日のこと、農園のイチゴが病気に罹った。


 葉っぱに変な模様ができたり、赤い実に白い粉のようなものが付着して食べれなくなった。


 病気はなかなか改善されず、収穫できる個数も減りオーナーは頭を抱えた。


 デリバリーの頻度も減り、このまま農園はどうなるんだろうという不安がよぎった。


 そんなとき注文が入る。


 同じクラスのあなたからだ。


 オカルト部のみんなで


「煉獄のイチゴケーキ」


 というものを作るらしいのだが、その完成図が想像できない。


 とにかく少ないイチゴをパックに詰めて、わたしは学校にスクーターを走らせた。


 到着して早々、玄関で代金を受け取るわたし。


 ――と、あなたはパックを見つめたまま動かなくなる。


「どうしたの?」


 そう声を掛けてみると、


「なんでもない」


 と言ってあなたは部室に戻った。


 わたしもバイトがあるから農園に戻るが、二時間後にあなたは農園にやってくる。


 例の煉獄なんとやらを持ってビニールハウスの外に出た。


 するとさえずりを響かせていた鳥がやってきて、あなたのケーキを食べ始める。


 その途端、痙攣を起こした鳥の口から、黒い煙のようなものが浮かび上がり、空中で消滅した。


 え、今のなに?


「これで呪いは解けた。イチゴの病気は治まるよ」


 そんなことをあなたは言う。


 まさか病気の原因は鳥たちだったなんて……。


 とにかく呪いが解けて一安心。

 

 農園は復活した。


 それ以降――。


 デリバリーに新メニューが追加され、わたしはケーキをあちこちに配達する。


 以前と少し変わったところは、イチゴの元気がないときは鳥を警戒するようになったことかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る