第111話死ぬほど恥ずかしいゴミ箱

 あのゴミ箱だけは誰にも見られてはいけない。


 死ぬほど恥ずかしいモノが、あそこには入っているからだ。


 誰にも気づかれることなく、掃除の時間に僕が全てを処分して終わるハズだった。


 だけど手違いで君がゴミ箱を持って行ってしまった。


 ……どうしよう。


 学校の敷地内を捜し回ったが、どういうわけか君の姿が見つからない。


 焼却炉や職員室、生徒に尋ねても君を見た者はいない。


 余計焦りは募っていくが、ここで焦ってもしょうがない。


 なにか飲んで落ち着こう。


 紙コップの自動販売機でココアを買うと、一気に飲み干した。


「……ん?」


 ふとコップの底を覗くと、なぜかどこかの風景が映っている。


 ここは一体?


 よく見ると深い森の中を、ゴミ箱を持った君が歩いていた。


 どこへ向かうのだろう?


 コップの底は映像を映し続けた。


 どうなっているんだ?


 不思議なこともあるものだな……。


 とにかく映像を頼りに君の元に向かった。


 どうやら近くの森にいるらしい。


 湖の畔で君を追い詰め、僕はゴミ箱を渡せと叫ぶ。


 あの中身を始末する必要があったからだ。

 

 その瞬間、君はゴミ箱をひっくり返した。

 

 ドバドバと劣等感の塊が落ちてくる。


 それは本来、抽象的なモノ。


 しかし、僕はそれを具現化する能力で、自分の「恥ずかしい」部分を固体にして捨てたのだ。


 ……見られてしまうとは。


 僕の恥ずかしい部分を見た君は、


「わたしは、あなたのそんな部分も含めて好き」


 と。


 そんなことを言った。


 深い森の湖のそばで。


 はっきりと言った。


「…………」


 僕は考える。


 湖に映る自分を見つめながら、劣等感の在り方について、しばらく考える――。

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