第110話宇宙人が、びっくりするくらい追い込んでネタの打ち合わせをした

 わたしは頭を抱えていた。


 今度の新人賞に応募する小説が、まだできていないからだ。


 締め切りまで一カ月を切ったというのに、プロローグの一行目すらできていない。


 どうしよう……原稿の神様がいるのなら、どうかわたしにアイデアをください。


 深夜に部屋の窓を開けて祈っていると、神様が空から降りてきた。


 ……案外どうにかなるものだ。


 しかしそれは神様というより男の子の姿をしている。


 ぼんやり燐光に包まれた飛行物体から出てきて、


「ぼくは宇宙人だよ」


 と何事もない様子で挨拶をしてきた。


 わたしのアイデアが欲しいというテレパシーが通じてやってきたのだという。


 この奇妙な流れから、さっそく小説ネタの打ち合わせが始まった。


 ……端的に言ってここからが地獄だった。


 あなたは宇宙人ウケするネタばかり提示してくるが、どれも人類には早すぎる。


「アンドロメダの渋滞を抜けるオススメの宇宙ヒモがあるんだよ」


 とか言われてもわからん!


 逆にわたしが提示したネタには「ふーん」とか言って薄い反応しか示さないし……あなたなんのために来たの?


 っていうか日本語どこで習ったよ? ペラペラじゃん……。


 ――そうこうしているうちに何も書けないまま夜が明けて、あなたは宇宙に帰っていった。


 ……茫然と立ち尽くしているとだんだん腹が立ってきて、やけくそで一晩の出来事を日記にして投稿してやった。


 ――――。


「それがわたしのデビュー作なんです」


 数年後、記者に囲まれながらそんなコメントを残す。


 人気作家になった今でも忘れられない出来事。


 インタビューを終えると、わたしはさっそく次の打ち合わせに向かう。


「外で円盤を待たせていますので」


 そんなセリフを残して――。

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