第105話くるったように小説を書く僕は、空間に入った割れ目で君を超える
僕と君は長きにわたり戦いを繰り広げている。
それは「どちらが売れっ子作家になるか」という戦いだ。
幼い頃から僕たちは物語を作ることに夢中になり、語り合っているうちに小説を書くようになった。
ただひたすらに物語を作り続けた結果、高校生になったときに二人はプロとしてデビューを果たしたのだが、同時に世界が歪んで空間が割れた。
ありえない話だが、僕たちは二つに分かれた世界にそれぞれ飛ばされてしまい、君のいない世界は何事もなかったかのように回っている。
世界が分裂した事実を知っているのは二人だけだ。
おかしなことは続く。
君のいない世界で、君の本が出版されているのだ。
書店に本は並んでいるのに、君はこの世界にいない。
逆に僕が本を出版すると、君がいる世界に僕の本が並ぶ。
世間の人は作者のいない本を買って絶賛する。
ホントおかしな世界だ。
僕たちは出版する本にメッセージを仕込んで情報のやり取りを行った。
本を出版するごとに君が元気でやっている様子や、印税で家を買ったことを知る。
僕も、たわいもない近況報告をした。
君の本はおもしろい――正直な気持ちを伝える。
伝えているうちに、君を超えられない悔しさと、また会いたい気持ちが抑え切れなくなった。
本棚に並べていた君の小説を狂ったように破り始め、何度も何度も繰り返す。
宙を舞うページが、夕日の色で朱に染まった。
――と、外の風景が歪んで、ビシっと大きな音が響く。
ページを破るように空間に入った割れ目、そこから君の声が聞こえた。
「わたしも同じ! まだ勝負は終わってないから!」
そして割れ目は閉じた。
――それからしばらく。
いつもどおりの日常は続く。
いつか君を超えることができたら。
そのときはまた想いが空間を越えるのかな?
再会できる日を想像して。
僕はまた、小説を書く。
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