第103話黒服の女性がニオイのあるジャージを着ていたので夏祭りを思い出す

 君は黒服の女性というあだ名がついている。


 エージェントみたいなピシッとしたスーツを好んで着ているが、背が高くて大人っぽいから似合っている。

 

 僕と同じ高校生とは思えない。


 そんなある日とんでもないものを見てしまった。


 君がニオイのするジャージを履いて歩いていたのだ。

 

 なんだこのニオイ?


 僕は驚いて二度見してしまった。


 ジャージを着ることがそもそも意外だし、それ以上にニオイのするジャージってどういうことだよ!?


 凛とした歩調は崩さず、表の道をズンズンと進んで行く。


 あまりにも気になってしまい、僕はあとをつけることにした。


 一体どこに向かうのだろう?


 物陰に隠れながら追跡しているうちに、ふと思い当たる。


 このニオイ、どこかで嗅いだことがある。

 

 ジャージから漂うニオイという先入観から誤解していたが、これは決してイヤなニオイじゃない。


 どこか懐かしい、夏のお祭りで嗅いだことのある……。


「火薬よ」


 ――そんな声が聞こえた瞬間、君はいつの間にか僕の後ろに回り込んでいた。


 こめかみには銃口が当てられており、僕は震えながら手を挙げた。


 どうやら君の正体は本物のスパイらしい。


 うっかりスーツをクリーニングに出してしまい、仕事に着ていく服がなかったのだとか。


 代わりに訓練用のジャージを着てみたが、気持ちが締まらないという。


「ちょっとそれ貸して」


 ――そう言って僕の制服を剥ぎ取った君は、颯爽と仕事に出掛けていった。

 

 制服が身体に合ったようで、仕事はとても捗った模様。

 

 そのあと制服を返してくれたのだが、生地から漂う君の香りが忘れられなくてクリーニングに出せない。

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