第98話窓から落ちるコーヒー

 あなたはクラスの委員長だ。


 先生から頼りにされることが多いためか、色々と仕事を任されている節がある。


 クールなメガネを直して冷静に作業に取り組む姿勢が、実はわたしの好みだ。


 ただし気になる点が一つある。


 時々、飲みかけのコーヒーを窓の外に捨てているのだが、あれはなにをしているのだろう?


 あなたは物を粗末にするのが嫌いなので、その行動が不可解で仕方ない。


 そこでわたしは、あなたを観察することにした。


 そうするとコーヒーを捨てる際は、決まって忙しい時だということが判明する。


 なにかのおまじないにも見えるが……さらに観察を続けることで一つの真実に辿り着いた。


 窓の外に、とある生き物がいた。


 ネコだ。


 地面に落ちたコーヒーの匂いを嗅ぐと、のっそりとした動きで、ある場所に向かっていく。

 

 追跡した結果、近所から離れた一軒の喫茶店に辿り着いた。


 どうやらネコはここで飼われているようだ。


 わたしは店に入ると、マスターから色々なことを聞いた。


 あなたは年下の弟妹がいるから、学校に内緒でここでバイトをしているという。


 委員長の仕事が長引くとシフトに間に合わないこともあり、マスターは状況を鑑みてくれたのだとか。


 このネコにコーヒーの匂いを嗅がせることは、遅れる旨を知らせる合図なのだという。


 今もネコはホワイトボードに貼られた「遅刻」のマグネットをカリカリと爪で掻いていた。


 なるほど、伝言役だったのか。


 ――次の日からわたしは委員長の仕事を手伝う。


 そのお礼に、今度コーヒーを淹れてくれるらしい。


 まだ見習いだというが、失敗しても窓から捨てないから、そこは安心して淹れてほしい。

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