第95話浜辺に落とした記憶
僕は手で触ったものから過去を知る能力を持っている。
触れた瞬間、脳内で映像と音声が映画のように流れるというものだ。
なんでもないものから思わぬドラマを見てしまうこともあり、気を抜いていると驚かされるし、体力を使う。
今日は学校も休みなので身体を休めよう。
一人ぶらりと海へやってきた。
「ん、なんだろう?」
この海岸は台風の通り道になっていて、度々地形が変わっている。
そのためか、抉れた地面から光るモノがでてきた。
宝石が埋め込まれたブローチだ。
それを拾い上げた瞬間、脳内に白いワンピースの女の子が映し出される。
その可憐な横顔に、僕は一目惚れしてしまった。
しかも初恋……。
どうやらブローチは、この子の大切なものらしい。
失くして困っているようだった。
しばらく海岸を探していたが、見つけることができずにどこかへ去ってしまう。
女の子は今もこのブローチを探しているのだろうか?
「……それなら」
僕が届けようと思った。
だけど女の子がどこの誰かもわからない。
僕はまず、過去の映像を探りながら少しずつ手掛かりを集めていった。
街を抜け、電車を乗り継ぎ、ようやく見つけた静かな一軒家。
玄関に立ち、緊張した面持ちで尋ねると、中からおじいさんが出てきた。
持っていたブローチを見るなり、亡くなった妻が探していたものだと大変驚いている。
つまり、僕が見たのはかなり昔の映像だった。
あの女の子はこの人の奥さん。
見つけてくれてありがとうと、おじいさんは別れ際に握手をしてくれた。
僕の初恋は終わったけれど、切なさの中にも少し温かいものを感じた。
だって握手をしてくれた時、奥さんがどれだけおじいさんを大切に想っていたかがわかったから。
――帰りの電車に揺れながら、僕は夕日が沈む海を眺める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます