第94話鳥とお話するわたし

 わたしには好きな人がいる。


 けれどなかなか声をかけることができない。


 あまり社交的な性格ではないから、何気ない会話をするだけでも声が詰まってしまう。


 話そうと思って結局諦めてしまう日々。


 あなたの物静かな後ろ姿を、教室の後ろから眺めている。


 あなたは鳥が好きで、よく校庭や帰り道で観察をしている姿を見かけた。


 休みの日も屋外で望遠鏡を覗いたり、手のひらに餌を載せて小鳥を集めて楽しそうにしていた。


 よっぽど好きなのだろう。


 鳥と戯れているときは、学校では見せない無邪気な笑顔を覗かせていた。


 ああ……わたしも鳥になりたい。


 そんなことを思っていたら、鳥たちの言葉がわかるようになった。


 最初は信じられなかったけど、言葉がわかるだけじゃなく会話が成立するから驚きだ。


 鳥たちとお話をすることで、少しずつ会話への抵抗が薄れて、あなたに話し掛ける勇気が湧いた。

 

 よし、今度話してみよう。


 ――しかし、そんな矢先にあなたは遠くの街に引っ越すことになった。


 それがショックで何も言えないまま、あなたはこの街を去ってしまう。


 後悔だけが残って数カ月が過ぎたある日――。


 わたしは部屋の窓を開けて電線のスズメたちと話をしていた。


 すると、とある街に住む男の子の話題が飛び出す。


 なんでも以前住んでいた街に、気になる女の子がいたのだとか。


 友達になりたかったけど、声を掛けれなかったことを後悔して、時折ため息をこぼしているらしい。


 鳥好きのその子は、今度用事でこの街に遊びに来るとか。


 ………… 


 それを聞いた次の日から、わたしは鳥たちと一緒にお話の練習を再開する。

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