第92話盗むと奪うの境界線

 わたしはゲームするならRPG派だ。


 部屋に引きこもってハードの電源を入れると、そこから物語の世界に没頭する。

 

 周りの声や音を遮断するためにカーテンを引き、明かりを落とすくらいだ。


 主人公の職業を泥棒にして、今日も敵から装備品を盗む。


「ん? これって……」


 プレイ中に手が止まった。


 画面を見ると敵キャラだった戦士があなたの姿になっている。


 主人公はわたしの姿になっているし、どうなっているんだろう?


 試しに戦士からお金を盗んでみた。


 すると翌日ありえないことが起こった。


 あなたのサイフからお金がなくなっていたのだ。


 しかも二千円ぴったり。


 わたしはゲームと現実がリンクしていることに気付き、その日からよりゲームへの熱が加速した。

 

 目的はあなたの「ハートを盗む」こと。


 確率的には1パーセント未満の難関だったが、執念の結果、一カ月後に盗むことができた。


 やった! ふふふ……学校に行くのが楽しみだ。


 でもあなたは素っ気ない挨拶をするだけで、全然態度に変化がない。


 強いて言えば、クラスの委員長と楽しそうに会話しているくらいだろうか?

 

 わたしは胸騒ぎを覚えた。


 帰宅後、慌ててゲームを起動してみる。

 

 するとそこにはあなたの他に、クラス委員長が踊り子の姿で表示されていた。


 魅惑のダンスを披露して、すっかりあなたを骨抜きにしている。


 なるほど、そういうことか。

 

 じゃあ仕方ない。

 

 わたしは盗むことをやめて、装備品を暗殺用のダガーに持ち替えた――。


 次の日から委員長の欠席が続いたが、誰一人としてその理由を知る者はいない。


 ま、わたしはゲームが楽しいからどうでもいいんだけど。

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