第91話光る風の中で――

 桜舞う4月。


 花びら満開の木の下で、僕は君に告白するという暴挙に出た。


 こんなことしたら自分に酔ってるのかとツッコまれそうで、内心ビクビクしている。

 

 とにかく君への想いに嘘はない。


 しかし告白した瞬間に、僕は未来の世界に飛ばされてしまった。


 いきなりすぎてわけがわからない。


 さらに驚いたことに、未来の世界で大人になった君を見た。


 なんと別の人と結婚していて、子供がいた。


 ……マジか。


 しかも未来の僕はフラれたショックでダメな大人になっていたことが判明する。


 かなりヤバイ未来だ……。


 つまり僕は、現代で告白したあとフラれたということだ。


 さて、どうする?


 フラれることがわかっているのなら、何も言わずに友達の関係を続けていたほうがマシか?


 そうこうしているうちに、いつの間にか現代に戻っていた。


 なんか不思議な夢を見ていたような感覚だ。


 それから僕は悩んだ挙句、君を桜の木の下に呼び出すことにした。


 呼吸を整え、おどおどした視線を君に向けると、


「好きです」


 と告白した。


 でも、君は黙ったまま首を横に振ったので、「ごめんね」と僕は力なく笑った。


 やっぱり未来は変えれなかった。

 

 こうして一大イベントは終わる。


 ――それから数日後。


 雨が降って桜は全部散った。


 あれから君は僕に話し掛けなくなった。


 代わりに意中の人と距離が縮まったようで、なによりだ。


 まぁ、これでいいと思っている。

 

 あれから十年経った今。


 なにより君はとても幸せそうだったからだ。


 子供を抱いて笑いながら、桜の木の下を散歩している。


 それだけで十分だった。

 

 僕は静かにこの場を去る。


 ――光る風の中、宙を舞う桜が青い空に吸い込まれていった。

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